大阪高等裁判所 昭和54年(ネ)1663号 判決 1981年4月30日
控訴人
高見雄幸
右訴訟代理人
上坂明
外三名
被控訴人
崔仁煥
右訴訟代理人
仲武
主文
一、原判決を次のとおり変更する。
二、被控訴人は、控訴人に対し、金三八万八〇〇円及び昭和五五年四月一日から原判決添付別紙目録記載二の仮換地のうち、原判決添付別紙図面表示の斜線を施した部分の土地20.72平方メートルを、その地上に存する鉄筋コンクリート造陸屋根七階建事務所兼居宅部分を収去して右土地明渡しずみにいたるまで、月額八万七二四二円の割合による金員を支払え。
三、控訴人のその余の請求を棄却する。
四、訴訟費用は第一、二審を通じこれを五分し、その一を控訴人の、その余を被控訴人の各負担とする。
五、この判決は控訴人の勝訴部分につき仮に執行することができる。
事実《省略》
理由
一被控訴人が昭和四五年五月以前から本件土地上に本件建物部分を所有して本件土地を占有していること、控訴人が大阪地方裁判所に対し、被控訴人を相手取り本件建物部分を収去して本件土地の明渡しを求める訴訟(同庁昭和四六年(ワ)第九六九号事件、以下「前訴」という。)を提起し、同五一年一一月一〇日、被控訴人は控訴人に対し、本件建物部分を収去して本件土地を明渡すべき旨の判決が言渡されたこと、さらに、右事件の控訴審(大阪高等裁判所昭和五一年(ネ)第二〇九五号控訴、同五二年(ネ)第三一二号附帯控訴事件)において、同五三年五月三一日、被控訴人の控訴を棄却し、控訴人の附帯控訴に基づき被控訴人は控訴人に対し、昭和五二年一月一日から本件建物部分を収去して本件土地明渡しずみにいたるまで、月額四万七八〇〇円の割合による金員の支払を命ずる旨の判決が言渡されたこと、被控訴人は右控訴判決に対し上告(最高裁判所昭和五三年(オ)第九九九号事件)したが、同五四年一月三〇日、上告棄却の判決が言渡され、右判決が確定したこと、被控訴人がその後現在まで本件土地の占有を続け、本件建物部分を第三者に賃貸していること、以上の事実は当事者間に争いがない。そして、<証拠>を総合すると、原判決添付別紙目録記載一の従前の土地は控訴人の所有であり、その仮換地として関谷工区三五―二―六―二宅地151.04平方メートルが指定されていたが、昭和四五年五月一二日本件仮換地に変更指定され、その効力発生日が同月一六日と定められたこと、被控訴人の前記のような本件土地の占有は何らの権原に基づかないものであつて、控訴人の本件土地(仮換地)の使用収益を侵害していること、控訴人は被控訴人の右土地占有による不法行為により本件土地につき賃料相当の損害を被つていること、控訴人は、前訴の第一審において、昭和四五年五月一六日から本件建物部分を収去して本件土地の明渡しずみまで、賃料相当損害金として月額五万円の割合による支払を求めたが、前訴第一審判決では認容されることなく、前訴控訴判決において、昭和五二年一月一日から本件土地明渡しずみまで、前記のように月額四万七八〇〇円の割合による賃料相当損害金の支払が命ぜられ、その余の賃料相当損害金の請求は棄却され、その後同判決が確定したこと、以上の事実が認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。
二ところで控訴人は、本訴において、前訴確定判決で昭和五二年一月一日から本件土地明渡しずみまでの賃料相当損害金請求が前示のとおり認容されたが、その後の昭和五四年二月一日以降における本件土地不使用による損害金については、まず本件土地が駐車場として利用すべき特別事情による損害が生じているとして前訴認容の賃料に相当する通常損害金と右自動車保管料相当損害金との差額分の損害金の支払を求め、次いで右判決後の物価の上昇、地価の昂騰、公租公課の増大などがあること、また、本件土地の周辺の商業施設、娯楽施設がさらに一段と整備し、本件土地一帯が顕著な発展を遂げたことなどから本件土地賃料相当の損害金が前訴認容の賃料相当の損害金額より著しく増大したとしてその差額分の損害金の支払を求めるものであるところ、被控訴人は、控訴人の本訴請求は前訴と同一訴訟物についての確定判決後の残額請求であり、訴訟における禁反言の法理に反し許されない旨主張するので、以下この点につき検討する。
前訴控訴審判決で認容された本件土地の明渡しずみまでの賃料相当損害金の支払請求は、同控訴審の口頭弁論終結時までに生じた損害金については現在の給付請求に関するものであり、また、その後から本件土地明渡しずみまでの損害金については将来の給付請求に属するものであるが、右の賃料相当損害金は通常生ずべき損害にあたるものというべきであるから、後訴において右損害のほか前記特別事情による損害を請求することの許されることはいうまでもなく、また、右の将来の給付請求にあたる賃料相当損害金の請求を判決で認容するにあたつては、既判力の標準時である事実審の口頭弁論終結時を基準とし、その時点における相当賃料額にあたる損害金に限定して予めその給付を命ずるよりほかはないのである。けだし、右口頭弁論終結時において将来における相当賃料額を確定することは、当事者のみならず裁判所にとつても所詮不可能な事柄に属するものといわなければならないから、将来に最も接近した右口頭弁論終結時における相当賃料額にあたる損害金額が将来もなお保持されるものとして、この時点における相当賃料額にあたる損害金に限定して予めその給付を命ずるよりほかはない(したがつて、既判力もこの限度でしか生じない。)からであり、したがつて、右判決後において地価の昂騰、公租公課の増大等により、実際の損害額が右判決の認容額を上回る結果を生じる(あるいはその逆の結果の生じる)にいたることはけだし免れがたいところといわなければならない。そこで、前訴認容の右将来の賃料相当損害金なるものが右のような性質を有するものである点に鑑みれば、前訴における将来の賃料相当損害金の主張が一応損害の全額を請求する趣旨であつたとしても、前訴確定判決後の事情の変更により相当賃料額が昂騰しこれに相当する損害金が増大し、それが前訴で認容された将来の賃料相当損害金を上廻る結果が生じた場合には、後訴において右認容された損害金との差額を請求できるものと解するのが相当であり、右のような場合は全額請求が可能であつた同一訴訟物についての一部請求につき確定判決を経た後の残額請求をする場合には該らないものというべきであり、したがつて右と見解を異にする被控訴人の右主張は採用することができない。
三そこで、控訴人主張の損害金請求の当否について判断する。
(一) <証拠>によれば、控訴人は、昭和四〇年頃から本件土地の西側隣接地で駐車場の営業をしているが、昭和五四年二月一日当時においては、本件土地が駐車場として利用されるにいたることは周辺の状況から被控訴人においても予想できたところであること、また、本件土地を駐車場として利用すると、同土地には少くとも軽自動車三台の保管が可能であり、浪速区モータープール協会の定める軽自動車の月ぎめ保管料は当時一台につき月額二万五〇〇〇円であるので、軽自動車三台分の保管料は月額合計七万五〇〇〇円をくだらないことが認められ、右認定に反する証拠はない。もつとも、<証拠>によれば、本件土地上に軽自動車五台の保管が可能のごとくであり、控訴人本人もこれに副う供述をするが、前示各書証によつて認められる軽自動車の全長や全幅と本件土地の形状・面積とを対比して考えると、本件土地部分が明け渡されたからといつて、このことのために同自動車五台を増加して保管することが可能であるとは認めがたいところであ<る。>
そうすると、控訴人は、その主張する昭和五四年二月一日から翌五五年三月末日まで被控訴人本件土地占有により少くとも特別事情による損害として右保管料と同額の損害を被つたものというべきところ、被控訴人においてこの損害発生を予見することができたはずであることは前示のとおりであるから、被控訴人において右の損害を賠償すべき義務があるものといわなければならない。被控訴人は、本件土地を駐車場として利用することは予見可能でなかつた旨主張するが、<証拠>によつても右主張を認めるに足らず、その他本件全証拠によつても右主張を認めてこの点に関する前示認定を覆えすことはできないから、右主張は採用できない。してみると、前記自動車保管料月額七万五〇〇〇円から控訴人主張の前訴確定判決で認容の賃料相当損害金の月額四万七八〇〇円を差引いた残額は二万七二〇〇円となり、昭和五四年二月一日から同五五年三月末日までの間においては、その残額が合計三八万八〇〇円となることが明らかであるから、被控訴人は、控訴人に対しこれと同額の損害を賠償すべき義務があるが、控訴人主張のその余の義務はないといわなければならない。
(二)次に、<証拠>を合わせると、前訴控訴審の口頭弁論終結の日である昭和五三年四月一二日以後において、当審での控訴人の主張(一)(1)において控訴人が主張するような消費者物価の上昇、土地価格の著しい昂騰、固定資産税と都市計画税の増大等の各事実が存すること、また、同(一)(2)において控訴人が主張するように、本件土地の近隣地域に難波駅のほか商業施設、娯楽施設が集中していること、特に昭和五四年から同五五年にかけて難波駅の整備やナンバシティの全面開業に伴う同駅周辺一帯の整備も完了し、それに伴つて本件土地附近における駐車場の利用客が増加している等の特殊事情の存することがいずれも認められ、以上認定の諸事情に<証拠>を合わせ考えると、前訴確定判決後における前示のような事情の変更により本件土地の昭和五五年四月一日当時における相当賃料額は月額一三万五〇四二円に達していることが認められるから、右日時以降控訴人は、被控訴人の本件土地占有によりこれと同額の損害を被つているものというべきであり、他にこの認定を動かすに足りる証拠はない。そうすると、控訴人の当審での新たな不法行為の主張について判断するまでもなく、被控訴人は、控訴人に対し、控訴人主張の右日時以降本件土地明渡しずみにいたるまで、右損害月額から前訴確定判決で認容された賃料相当損害金月額四万七八〇〇円を差し引いた残月額八万七二四二円の割合による損害金を支払うべき義務のあることが明らかである。
四以上説示したところによれば、控訴人の本訴請求は、当審で拡張した部分を含めて、前記三八万八〇〇円及び昭和五五年四月一日から本件建物部分を収去して本件土地明渡しずみにいたるまで、月額八万七二四二円の割合による金員の支払を求める限度において正当としてこれを認容すべきであるが、その余は失当として棄却すべきであるから、これと異なる原判決を右のとおり変更することとし、民訴法九六条、九二条、八九条、一九六条を適用して、主文のとおり判決する。
(唐松寛 奥輝雄 平手勇治)